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早すぎた花札ゲーム「花札渡世」の謎

最近気になっている古いアーケードゲーム「花札渡世」について調べたことを書き残しておきたいと思います。
これは、ほぼ知られていないであろうアーケードのメダルゲームで実際稼働したかどうかも不明です。私も実際に見たことはありません。なので、これはほぼ無駄知識というか役立たない情報なのですが、まぁ…まずは広告を見てみてください。

この広告は、アミューズメント業界誌の月刊コインジャーナル1978年11月号((株)コインジャーナル刊)に掲載されていたものです。他にも、業界新聞である「ゲームマシン」紙(アミューズメント通信社発行)の1978年11月15日第108号33面にも広告が掲載されています。(ゲームマシンアーカイブのリンク)

これ以前の掲載は確認できていないので、1978年11月前後に発表されたものと考えられます。
どこかの任侠映画にいそうな人や、スパイ映画に出てきそうな人のイラストが印象的な広告からは、メダルゲームであること、花札ゲームの「花札渡世」と、ポーカーゲームの「ミスター・ポーカー」の2種類があること、製造・発売元はワコーインターナショナル株式会社であることがわかります。
「世界初!!」というコピーが何にかかっているのか不明ですが、画面を見ると確かに広告に掲載されている通りカラーで花札やポーカーが再現されています。

ここでちょっと「あれっ」と思ったのですが、1978年11月というのはスペースインベーダーが出て間もない時期で、多くのビデオゲームは、まだ白黒(モノクロ)の表示でした。スペースインベーダーがカラーになったのも10月頃からです。特にCPUを使ったビデオゲームで、カラー表示を行っているものはごく一部しか存在せず、高精細なドットの単位で異なる着色ができるのは、当時としてはかなり進んだ技術だったのです。
当時のパソコン(マイコン)にしても、まだ日本ではキットやワンボードが一般的で、広く知られているNECのPC-8001が発売されるのは翌年の1979年に入ってからになります。つまり、どう考えてもこのゲームは出るのが早すぎるのです。特に花札は、カラーの図柄でなければ認識が難しいため、貧弱な表示性能では実現できません。何が世界初かと言えば、これはおそらく世界初の花札ビデオゲームと言っていいのではないかと思います。

そんなオーパーツ的なゲームに俄然興味が沸いてきました。
実際、パソコンで花札ゲームが作られたのは1979年以降で、アーケードでも「花合わせ」(瀬田企画 1982)、「対局花ピューター」(日本物産 1982)など、かなり後になってからの登場となっています。
そもそも、もう1つの「ミスター・ポーカー」にしても、一般的な5枚カードではなくカードを7枚使うセブンカード・スタッドという相当に通好みなルールを採用しています。この分野の先人であるnazoxさんのブログによれば、シグマによる日本初のビデオポーカーが発表されたのも、ほぼ同時期の1978年(10月頃?)で、当然のように白黒の表示でした。

このゲームを製造するワコーインターナショナルという会社も、これ以前には目にしていないメーカーです。知れば知るほど、このゲームには謎が出てきます。本当に作られたのか? 何らかのトリックがあるのでは…と思いかけていた中、同じく「ゲームマシン」紙第108号の5面に気になる記事がありました。


「ゲームマシン」1978年11月15日第108号5面より ©アミューズメント通信社

記事によれば、第16回アミューズメントマシンショー(1978年10月18日~20日)と同日に、ワコーインターナショナルがデン晴海で展示会を開いていたそうです。デン晴海というのは、アミューズメントマシンショーが開催されていた東京晴海貿易センターの近くにあったモダンなホテルで、ショーの後にパーティーやレセプションが開かれたりする場所として、関係者にはよく知られていました。なぜアミューズメントマシンショーで展示しないのかと言えば、展示ブースがなかったわけで、同時刻に近くの会場で展示することで立ち寄ってもらえるという狙いがあったのでしょう。

余談になりますが、この時、同じホテルで展示を行っていた(株)フジコロムと(株)ワールドベンディングという会社は、この展示開催についてアミューズメントマシンショーの主催(JAA)から自粛するよう事前に申し入れが出ていました。にも関わらずレセプションを開催し、スペースインベーダーのコピー品である「フジ・スターインベーダー」をいち早く披露するなど、なかなかワイルドな営業スタイルを見せています。
この2社が、ワコーインターナショナルとどのような関係にあったのかわかりませんが、もう1社の(株)ワールドベンディングは、もともとは関西の日本ベンディング販売という会社で、日本物産(株)とともに多くのメダルゲーム機を販売していました。
うまく言えませんが、スターウォーズに例えると、健全なメダルゲームの普及を標榜していた株式会社シグマが主人公側のジェダイの騎士だとするならば、フジコロムや日本ベンディング販売は暗黒面、ダークサイド的な存在ではないかと思います。ちなみに、(株)フジコロムと(株)ワールドベンディングはその後、スペースインベーダーの類似品製造でタイトーから提訴され、それぞれ1982年と1979年に倒産しています。

話を戻すと、記事の中でワコーインターナショナルが展示していたマイコン「マーベル2000」というのが気になります。あまり聞いたことのない製品ですが、Wikipediaの「パーソナルコンピュータ製品一覧」によれば、確かに1978年に「MARVEL 2000」の項目があります。

当時のマイコン雑誌「I/O(アイオー)」(工学社刊)でも、よく見ると広告の中で販売されているのを確認できます。(1979年7月号より)

ここでは、MARVEL 2000またはGRAPE-1となっています。この、GRAPE-1というのは当時人気だったApple II(Apple Computer)の互換品、つまり基板をコピーした製品のことです。ということは、MARVEL 2000も同様の互換品だと思われます。
オリジナルのApple IIは、当時の為替レートによる影響もあり、50万円近い高価なパソコンでした。汎用の部品だけで構成されているため、コピーが容易で80年代に入ってから日本でも互換品が広く普及しました。70年代のうちは、まだ互換品と言っても、RAMやCPUなどの部品が高価なためそれほど安くはなっていません。
ワコーインターナショナルがMARVEL 2000というパソコンを販売していたことは、当時のマイコン雑誌などからも明らかなため、「花札渡世」と、「ミスター・ポーカー」もこのコンピューター上で動いていると考えると、色々なことが腑に落ちます。

ネットを検索してみると、おが☆さんが作成された古いパソコンの画像を集めたページに、MARVEL 2000が掲載されていました。(画像は、http://www2d.biglobe.ne.jp/~oga/pc/oldpc/index.html#PC のものを引用させて頂きました)

広告の画面に映っている映像が、何となく花札に見えないこともありません。まだコンピューターが珍しい時代に、いち早くCPUを搭載し、ドット単位にカラー化できたのも、Apple II互換ということであれば納得できます。
以下の画像はApple IIの有名なゲーム「Wizardry」(Sir-Tech 1981)のものですが、AppleIIではNTSCの家庭用テレビに接続した際に、ドットのにじみが発生し、それによって色を表現しています。


Wizardry / Sir-Tech 1981©

「花札渡世」の広告にあるビデオ表示にも同様の色のにじみが見られます。


花札渡世 / ワコーインターナショナル株式会社 1978©

気になるのは、Apple IIでは6色を表現できたのに対して、「花札渡世」では4色程度しか見たありません。このあたりは、モニタの接続方法や仕様によるのかもしれません。※Apple IIの初期版は4色のみ表示可能とのご指摘を頂きました、この部分を削除させて頂きます。

何にしても、1978年にいち早く花札のゲームを発表し、新しい形のメダルゲームとして時代に先駆けていた事実は揺らぎません。ゲームマシン紙によれば、ワコーインターナショナルでは、1979年に入ってから自社内でショールームを作りマシンを展示していたとのことです。実際に販売され稼働したかどうかは不明ですが、少なくともデモンストレーションができる程度には、製品が出来上がっていたと考えられます。
今となっては、なかなか事実を確認する手段がないですが、色々な意味で早すぎた花札ゲーム「花札渡世」が、少しだけ歴史に残ってくれるといいなと思いつつ記事にしてみました。

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