計算例

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ここでは実際にPhonon-Cを使用した計算の例を示し、計算結果と物性・現象がどのように対応しているかを 簡単に見ていきます。

まず起動したままの計算条件で計算を実行してみます。このときの 'Lattice parameter=3.2447' は平行原子間距離 に対応したものになっており、すなわち最安定な格子定数のbcc結晶についての計算になります。では計算結果の 主な物性値を以下に示します。分散関係は横軸がΓ点からトータルで進んだ距離、縦軸が周波数[THz]です。 状態密度は横軸が周波数[THz]、縦軸がDOSです。

続いて、安定な状態から少し格子を広げてみます。これは 'Lattice parameter' の値を増やす操作に対応します。 ここでは 'Lattice parameter=3.2847' に設定してみます。設定が終わったら再び計算を実行します。 計算結果は以下のようになりました。

Debye温度は結晶の硬さを代表する値です。 値が高いほど結晶が硬いことを表します。先程の計算と比べると、格子を広げるとDebye温度が下がっている ので、結果として結晶はやわらかくなっていることが分かります。 また、Debye温度は古典論と量子論の境界と考えることも出来ます。すなわち、Debye温度より低温では 全てのモードが励起できるわけではなく、量子効果を考慮しないといけません。反対に高温では 全モードが励起できるので、振動数はaverageで代表される単純な振動子の集まりと考えて差し支え ないわけです。 さて、分散関係については目立った変化はありませんが青色のブランチに若干の変化が見られます。 状態密度はその形状が大きく変わりました。また、状態密度の最大値が、格子を広げると下がっていることが 分かります。じつは状態密度の最大値は先程のDebye温度と密接に関係しており、状態密度の最大値が 小さい→Debye温度が低い→結晶が柔らかい というつながりがあります。

では今度は逆に、安定な状態から格子を縮めてみましょう。ここでは 'Lattice parameter=3.1447' に設定してみます。 設定が終わったら再び計算を実行します。計算結果は以下のようになりました。

Debye温度がかなり上がり、結晶が硬くなっていることが分かります。また、分散関係に顕著な変化が 現れました。横軸5.5付近からでている青色のブランチが負の値をとっています。 これはT1Nモードの不安定性と呼ばれるもので、この振動モードが不安定になっていることに対応します。 調和近似モデルがこのモードにおいて破綻している、とも捉えることが出来ます。 また、このモードの不安定性によってbcc構造がhcp構造に相転移することも知られています。 すなわち、このbcc結晶を押し縮めていくと、hcp構造に変化することがこの分散関係から予想できます。 また状態密度も上の二つの形状からずいぶん異なったものになっています。通常状態密度は 低周波数側で周波数(横軸)に対して2次関数的に変化します。上の2つはある程度その傾向が 見られますが、格子を縮めたときの状態密度はピークが低周波数側にも多く、ざっとみると 直線的に変化しているようにも見えます。

最後に上の3つの状態について振動の自由エネルギーを見てみましょう。下図の横軸は温度[K]、 縦軸は振動の自由エネルギー[meV/atom]になっています。

に対応しています。このグラフから、格子を広げるほど、すなわち結晶が柔らかくなるほど振動の自由エネルギー が下がることが分かります。このことに対する定性的かつ直感的な説明としましては、「結晶が柔らかくなるほど振動の エントロピーが上がるので、結果として自由エネルギーが下がる」ということになります。


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